2026/10/29

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工場の安定稼働とコスト削減を実現するには? 調査・研究から考える、点検・修繕履歴を活かした予防保全

工場の安定稼働とコスト削減を実現するには? 調査・研究から考える、点検・修繕履歴を活かした予防保全

こんにちは。アーリーリフレクション BIMSTOKチームの三井です。

工場の設備が突然故障したとき、その影響は修繕費用だけにとどまりません。

生産ラインの停止や製造環境の悪化、納期遅延など、生産活動や企業収益に大きな影響を及ぼす可能性があります。

八千代ソリューションズ株式会社が2025年に実施した調査では、製造設備の突発停止による年間損失額が、1社あたり平均1,892万円と試算されています。

出典:八千代ソリューションズ株式会社『製造設備の突発停止の実態と対策 アンケート結果』(2025年6月20日公開)
https://yachiyo-sol.com/20250620-2/

※全国の製造業および鉄鋼業の後工程従事者500名を対象としたインターネット調査に基づく試算です。損失額は工場の規模や製造品目などによって異なります。

設備停止が頻繁に発生するとは限りません。しかし、たとえ発生頻度が低くても、一度の故障による損失が大きくなる場合があります。

一方で、すべての設備に十分な保全費用をかけられるわけではありません。限られた予算の中で、どの設備を優先的に点検・修繕・更新すべきかは、製造業にとって重要な経営課題です。

そこで重要になるのが、設備の故障を未然に防ぐ「予防保全」という考え方です。

予防保全を効果的に進めるためには、設備の状態や過去の不具合を把握し、適切なタイミングで点検・修繕を行うことが求められます。その判断材料の一つとなるのが、日々蓄積されている点検・修繕履歴です。

本記事では、調査・研究を交えながら、工場の安定稼働とコスト削減に向けた予防保全の重要性と、点検・修繕履歴を活用した維持管理のあり方について考えます。

1. 工場の安定稼働に欠かせない、予防保全という考え方

工場の設備保全には、大きく「事後保全」と「予防保全」という2つの考え方があります。

事後保全は、設備が故障してから修理・交換する方法です。一方、予防保全は、故障を未然に防ぐため、計画的な点検や修繕、部品交換などを行う方法です。

事後保全に依存していると、設備の突然の故障によって緊急修繕費用が発生するだけでなく、生産停止による損失が大きくなる可能性があります。

米国国立標準技術研究所(NIST)が2021年に公表した製造業の設備保全に関する研究では、事後保全への依存度が高い企業群と比較して、予防保全・予知保全をより活用している企業群では、計画外の設備停止時間が52.7%少なく、不良・欠陥も78.5%少ないという結果が報告されています。

出典:Thomas, D. & Weiss, B.(2021)Maintenance Costs and Advanced Maintenance Techniques in Manufacturing Machinery: Survey and Analysis
https://www.nist.gov/publications/maintenance-costs-and-advanced-maintenance-techniques-manufacturing-machinery-survey

※調査対象企業群の比較結果であり、予防保全の導入によって同じ割合の改善が得られることを示すものではありません。また、研究対象は主に製造機械です。

こうした研究からも、故障してから対応するだけでなく、計画的に保全を行うことの重要性がうかがえます。

ただし、予防保全にも点検や部品交換の費用がかかります。

重要なのは、単に点検や交換の回数を増やすことではなく、設備の重要度や状態に応じて、適切なタイミングで保全を行うことです。

2. 「時間基準保全」と「状態基準保全」

予防保全には、主に「時間基準保全」と「状態基準保全」という2つの考え方があります。

時間基準保全:一定の周期で点検・交換する

時間基準保全は、あらかじめ定めた期間や稼働時間に基づいて、点検や部品交換を行う方法です。

例えば、一定の年数が経過したら設備の部品を交換するといった管理が該当します。

保全計画を立てやすい一方で、設備の状態によっては、まだ使用できる部品を交換してしまうなど、過剰な保全につながる場合があります。

状態基準保全:設備の状態に応じて判断する

状態基準保全は、設備の劣化状況や動作状況を確認し、その状態に応じて修繕や交換のタイミングを判断する方法です。

例えば、同じ時期に設置した2台の空調設備があったとします。

一方は異常なく稼働しているものの、もう一方では異音や振動の増加が確認されている。

この場合、両方を同じタイミングで交換するのではなく、状態の悪い設備を優先的に調査・整備するという判断が考えられます。

このように、設備の状態に応じて保全を行うことは、故障リスクの低減だけでなく、限られた保全予算を適切に配分するうえでも重要な考え方です。

ただし、設備の重要度や故障時の影響、状態把握の難しさによって適切な保全方法は異なります。また、法令で定められた点検は、設備の状態にかかわらず実施する必要があります。

3. これまでの点検・修繕履歴も、設備の状態を判断するための情報になる

状態基準保全というと、IoTセンサーによって温度や振動などを常時監視する仕組みを想像するかもしれません。

もちろん、IoTは設備の状態を継続的に把握するうえで有効な技術です。

しかし、設備の状態を判断するための情報は、新しく取得するデータだけではありません。

これまで蓄積してきた点検記録や修繕履歴にも、設備の状態や不具合の傾向を把握するための情報が含まれています。

例えば、工場内の空調設備について、次のような点検記録が残されていたとします。

点検年度

点検結果

2024年

異常なし

2025年

運転時に軽微な異音を確認

2026年

異音が大きくなり振動も確認

※説明のための架空の例です。

これらの記録を時系列で比較すれば、設備の状態が徐々に悪化している可能性を把握できます。

その情報をもとに、追加調査の実施や修繕時期の見直しを検討することができます。

実際に、NISTの研究者らが2021年に発表した研究では、過去の空調設備の保全作業記録を対象に、データ品質が維持管理の分析に与える影響が検討されています。

この研究では、過去の保全作業記録が維持管理の判断を改善するための有用な情報源である一方、記録の欠落や不整合があると、保全指標の算出や傾向分析の精度が低下することが指摘されています。

出典:Conte, A. ほか(2021)The Impact of Data Quality on Maintenance Work Order Analysis: A Case Study in Historical HVAC Maintenance Work Orders
https://www.nist.gov/publications/impact-data-quality-maintenance-work-order-analysis-case-study-historical-hvac

つまり、重要なのは新しいデータを取得することだけではありません。

これまで蓄積してきた点検・修繕履歴を、設備ごとに整理し、必要なときに活用できる状態にすることも、適切な保全判断に向けた第一歩になるのです。

なお、過去の記録だけで設備の劣化状況を正確に判断できるとは限りません。設備の特性に応じて、専門的な診断やセンサーによる監視などを組み合わせることも重要です。

4. 点検・修繕履歴は、蓄積するだけではコスト削減につながらない

工場では、空調設備や受変電設備、給排水設備など、生産活動を支えるさまざまな設備の点検・修繕が日々行われています。

その記録は、紙の点検報告書やExcel、PDFなど、さまざまな形式で管理されていることがあります。

こうした方法でも維持管理は可能ですが、情報が複数の場所に分散している場合、過去の記録を確認するだけでも手間がかかります。

例えば、ある空調設備で異常が発生した場合を考えてみます。

  • 過去にも同様の異常が発生していないか
  • 前回はどのような修繕を行ったのか
  • 部品交換から何年が経過しているのか

こうした情報を確認するために、過去の報告書を探し、複数のファイルを照合し、場合によっては以前の担当者に確認する必要があります。

また、工場内に同じ型式の設備が複数設置されている場合、設備ごとの故障傾向を比較することも容易ではありません。

せっかく点検や修繕の記録が蓄積されていても、設備との対応関係が不明確だったり、必要な情報を探し出せなかったりすれば、次の保全判断に十分活かすことができません。

点検・修繕履歴を「記録するための情報」から、「次の保全判断に活かすための情報」へと変えていくこと。

それが、工場の維持管理を効率化し、長期的なコスト削減につなげるための重要な取り組みです。

5. BIMを活用して、点検・修繕履歴を保全判断につなげる

こうした維持管理情報の活用を支援する方法の一つが、BIM(Building Information Modeling)の活用です。

BIMは、建物や設備の3D形状だけでなく、名称や型式、仕様などの情報を持たせることができます。

例えば、工場内の空調設備や受変電設備、給排水設備などについて、BIM上の設備と点検・修繕履歴を紐づけることで、設備の位置や仕様とあわせて過去の維持管理情報を確認できるようになります。

その具体的な活用を支援するのが、BIM/CIM施設管理クラウド「BIMSTOK」です。

BIMSTOKでは、BIM/CIMモデル上の設備と、点検・異常・修繕などの維持管理情報を紐付けて管理できます。

また、AIアシスタントを活用すれば、登録された点検・異常・修繕などのテキスト情報を対象に、自然言語で検索することも可能です。

例えば、「この空調設備では、過去にどのような異常が発生している?」「過去に修繕が行われた設備を教えて」といった質問から、必要な情報を探すことができます。

こうした情報管理の仕組みは、工場の維持管理において、主に次の3つの観点で役立ちます。

1. 突発的な設備故障による損失リスクの低減

設備ごとの点検・修繕履歴を確認することで、過去に繰り返し異常が発生している設備などを把握しやすくなります。

その情報をもとに、重点的な調査や保全計画の見直しを検討することができます。

BIMSTOK自体が設備の異常を自動診断したり、故障を予測したりするものではありませんが、過去の履歴を把握しやすくすることで、故障リスクを低減するための保全判断を支援します。

2. 修繕・更新費用の最適化

工場には多くの設備が存在するため、すべての設備を同じタイミングで修繕・更新することが、必ずしも合理的とは限りません。

設備の重要度や状態、過去の修繕履歴などを踏まえ、優先順位を判断することが重要です。

設備ごとの情報を整理し、必要なときに確認できる環境を整えることで、保全予算の適切な配分や、中長期的な修繕・更新計画の検討を支援します。

3. 日常の維持管理業務の効率化

維持管理コストを考えるうえでは、修繕・更新費用だけでなく、日常の管理業務にかかる時間や手間も重要です。

過去の点検結果を確認するために複数のファイルを探したり、修繕の経緯を以前の担当者に確認したりする作業は、設備管理担当者の負担になります。

設備に紐づく点検・修繕履歴を共通の環境で管理し、検索できるようにすることで、必要な情報を探す時間や、担当者間での情報共有にかかる負担の軽減につながります。

また、担当者が交代した場合にも過去の記録を確認しやすくなるため、維持管理情報の属人化を抑えることが期待できます。

6. 工場の維持管理に必要なBIMとは?

BIMを工場の維持管理に活用する際には、モデルの作成・更新にかかるコストも考慮する必要があります。

BIMは、詳細なモデルを作成し、多くの情報を登録すればよいというものではありません。情報が増えるほど、その整備や更新にかかる負担も大きくなる可能性があります。

重要なのは、何のためにBIMを活用するのかを明確にし、その目的に応じて必要な設備や情報を見極めることです。

点検・修繕履歴の管理や設備情報の確認など、実際の維持管理業務での利用を想定し、必要な情報を適切に整備することが、BIMを継続的に活用していくうえで重要です。

7. 工場の安定稼働とコスト削減のために、今ある情報を活かす

工場の安定稼働を実現するためには、設備の故障を未然に防ぎ、適切なタイミングで点検・修繕・更新を行うことが重要です。

そして、そのために必要な情報は、必ずしも新しく取得するものばかりではありません。

これまで蓄積してきた点検記録や修繕履歴にも、設備の状態を把握し、将来の保全計画を考えるための情報が含まれています。

大切なのは、そうした情報を蓄積するだけでなく、必要なときに活用できる状態にすることです。

BIMSTOKは、BIM/CIMと維持管理情報を紐付け、設備ごとの履歴を継続的に蓄積・活用できる環境を提供します。

突発的な設備故障による損失リスクの低減、修繕・更新費用の最適化、日常の維持管理業務の効率化。

工場の安定稼働とコスト削減に向けて、これまで蓄積してきた点検・修繕履歴を日々の保全判断に活かしていくことが、その第一歩となります。


参考文献・調査資料

  1. 八千代ソリューションズ株式会社『製造設備の突発停止の実態と対策 アンケート結果』(2025年6月20日公開)
    https://yachiyo-sol.com/20250620-2/

  2. Thomas, D. & Weiss, B.(2021)Maintenance Costs and Advanced Maintenance Techniques in Manufacturing Machinery: Survey and Analysis. International Journal of Prognostics and Health Management, 12(1).
    https://doi.org/10.36001/ijphm.2021.v12i1.2883

  3. Conte, A. ほか(2021)The Impact of Data Quality on Maintenance Work Order Analysis: A Case Study in Historical HVAC Maintenance Work Orders. 6th European Conference of the Prognostics and Health Management Society.
    https://www.nist.gov/publications/impact-data-quality-maintenance-work-order-analysis-case-study-historical-hvac

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