2026/07/09
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維持管理におけるBIM活用とは?現場の効率化から施設管理(ファシリティマネジメント)の高度化まで

建物のライフサイクルコスト(LCC)において、設計・施工にかかる費用は全体の約2〜3割に過ぎず、残りの約7〜8割は竣工後の運用・維持管理フェーズで発生すると言われています。近年、建設業界を中心に導入が進むBIM/CIMですが、その真価が最も発揮されるのは、この広大で長期にわたる「維持管理・運用フェーズ」です。
本記事では、BIMを維持管理業務に活用することで得られる現場の効率化から、さらに一歩進めて経営戦略や不動産価値の最大化に繋げる施設管理(ファシリティマネジメント)の高度化まで、その具体的なメリットと成功のポイントを網羅的に解説します。
※本記事では「建築物」の維持管理・施設管理を前提としているため「BIM」と表記していますが、土木・インフラ施設の維持管理においては「CIM」として同様のデータ活用が進められています。
1. 建物の維持管理・運用における現状の課題
BIMの活用メリットを理解する前に、まずは現在の維持管理業務が直面している主な課題を整理します。
- 紙や2D図面と現況の不一致(改修履歴が追えない)
多くの施設では、竣工図書が紙や2D図面のまま保管されており、竣工後に実施された改修・増設工事の履歴が図面に反映されていないケースが後を絶ちません。「図面には壁があるのに現況にはない」「どこに何の配管が通っているかわからない」といった状況が、点検・修繕時の大幅なロスタイムを生み出しています。
国土交通省の調査でも、点検や改修など構造物の状態を詳しく把握する必要のある業務において「図面や管理履歴等の基礎的情報が不足している」との回答がかねてより多く挙がっており、正確な現況情報へのアクセス手段の整備が急務です。
- 設備情報やメンテナンス履歴の属人化(ベテランの勘への依存)
「あの設備のメンテナンス周期はベテランのAさんが頭の中に入れている」「修繕記録はAさんのノートにしかない」―こうした属人化は、建設・施設管理業界に広く蔓延する構造的な課題です。
熟練技術者の高齢化・退職が加速するなか、ベテランが持つ暗黙知が組織に引き継がれないまま失われるリスクが高まっています。属人化した情報管理は、トラブル発生時の対応遅延や、本来不要な調査・確認作業のコスト増加に直結します。
- 深刻な人手不足と、非効率な管理業務(点検・確認作業の手間)
建設業就業者はピーク時(1997年)から約3割減少しており、60歳以上の技能者が全体の約4分の1を占めるいま、10年後にはその大半の引退が見込まれています。限られた人員でより多くの施設を管理しなければならない状況は、今後さらに厳しさを増していきます。
現状の多くの施設では、点検のたびに紙のチェックリストへの記入、事務所への持ち帰り、Excelへの転記という非効率なフローが踏まれており、重要な判断・対応業務に時間を割けていないのが実情です。
人手不足が深刻化するなか、こうした「情報が正しく残らない・引き継がれない・探せない」という状況は、ただでさえ限られた人員の負担をさらに重くしています。だからこそ、建物の情報をデジタルで一元管理し、探す・確認する手間を減らせるBIMが、解決策として注目されているのです。
2. 維持管理業務におけるBIM活用の3つのメリット
デジタルで維持管理情報を一元管理し、探す・確認する手間を減らせるBIMが、解決策として注目されていますが、BIMを維持管理に活用すると、具体的に何が変わるのでしょうか。
まずは現場にもたらされる3つのメリットから見ていきます。
①3Dモデルによる直感的な把握と「隠蔽部の可視化」
天井裏の配管・壁の中の電気配線・床下の設備など、目視では確認できない「隠蔽部」の情報をBIMモデルで事前に把握できることは、維持管理における大きなアドバンテージです。
例えば水漏れが発生した際、従来は「どこに何の配管が通っているか」を古い竣工図から読み解き、場合によっては壁を開けて確認する必要がありました。BIMモデルがあれば、担当者がタブレットで該当箇所を参照し、配管の経路・材質・設置年を即座に確認して迅速な対処ができます。
②機器情報・修繕履歴の一元管理
BIMモデルと連携した施設管理システムを導入することで、設備機器の位置や仕様といったモデルの情報と、点検結果・修繕記録・写真といった日々の維持管理情報を、3D空間上でひもづけて一元管理できます。
BIMモデル上の設備を選択するとその箇所に関連する情報を確認でき、点検結果や現場写真をモデルにひもづけて記録していくことも可能です。紙の図面や別々のフォルダに散らばっていた情報が「場所」を起点に集約されるため、探す・突き合わせる手間が減り、報告や情報共有がスムーズになります。
③トラブル対応の迅速化と「予防保全」への移行
BIM活用により設備情報と点検履歴が蓄積されると、「どの設備が、いつ頃、どのような不具合を起こしやすいか」のパターンが可視化されてきます。これにより、故障してから対処する「事後保全」から、データに基づいて計画的にメンテナンスを行う「予防保全」へのシフトが可能になります。
予防保全の実現により、緊急対応にかかるコスト(割増工賃・急遽の部品調達費・業務停止損失)を削減し、設備の長寿命化による資本支出の最適化が期待できます。
このように、BIMの活用は「情報が残らない・引き継がれない・探せない」という現場の課題を一つずつ解消し、点検・修繕のたびに発生していた手間や属人化を大きく減らしていきます。
3. 維持管理から「施設管理(ファシリティマネジメント)」への発展
ここまで見てきた3つのメリットに共通するのは、「建物の情報をデジタルで蓄積し、必要なときに引き出せる」ことです。そして蓄積された情報は、日々の維持管理を効率化するだけでなく、経営や資産の視点で建物を捉える施設管理(ファシリティマネジメント)へと発展させることができます。
エネルギーマネジメントとサステナビリティ対応
BIMモデルとエネルギー管理システム(EMS)を連携させることで、建物のエネルギー消費量を3D空間上でゾーン別に可視化し、省エネ対策の効果測定を行えます。
国土交通省のモデル事業でも、BIMとエネルギー管理システム(BEMS)を連携させ、設備ごとのエネルギー使用量を可視化・分析する検証が進められており、BIMをエネルギー管理の基盤として活用する動きが始まっています。
ライフサイクルコスト(LCC)の精緻なシミュレーション
BIMモデルに設備の劣化曲線・修繕単価・更新コストを紐づけることで、10年・20年・30年スパンでの維持管理費用をシミュレーションできます。
「今すぐ修繕するか」「数年後にまとめて更新するか」「設備グレードを変更するとLCCはどう変わるか」といった意思決定を、勘や経験則ではなくデータに基づいて行えるようになります。これは建物オーナーや経営層への投資判断の説明責任を果たすうえでも非常に重要です。
スペースマネジメントの高度化
BIMモデルには各室の面積・用途・入居テナント・利用状況といったスペース情報を紐づけることができます。これにより、オフィスや商業施設における稼働率の可視化、レイアウト変更のシミュレーション、賃料収入の最大化に向けたスペース最適化が可能になります。
特に複数棟・複数フロアを抱える大規模施設の管理においては、BIMベースのスペース管理が意思決定のスピードと精度を大きく向上させます。
4. 維持管理・施設管理でBIM活用を成功させるためのポイント
これまでみてきたようにBIMは、経営や資産の視点で建物を捉える施設管理(ファシリティマネジメント)へと発展させることができます。BIMを維持管理で有効に機能させ、ファシリティマネジメントに発展させるには、導入段階での戦略が不可欠です。
ここまで見てきたように、BIMは維持管理の現場から施設管理の高度化まで大きな価値をもたらします。しかし現実には、多大なコストをかけてBIMを導入したにもかかわらず、竣工後は活用されずに「宝の持ち腐れ」になってしまうケースが後を絶ちません。その原因の多くは、技術やツールの問題ではなく、導入前の準備や運用設計にあります。
「どんなデータを、誰が、どうやって使い続けるのか」—これを竣工後に考え始めても手遅れです。維持管理でのBIM活用を成功させるには、次の2つのポイントを、プロジェクトの早い段階から意識しておくことが重要です。
- 「維持管理に必要なデータ」を設計段階から定義する
最も重要なのは、設計・施工フェーズの開始時点から「竣工後にどのデータが維持管理で必要か」を定義し、BIM実行計画(BEP)に明記することです。
維持管理側の要求を後から設計者・施工者に伝えようとしても、すでにモデルが完成していては入力コストが膨大になります。「設備機器には型番・製造メーカー・設置日・保証期間を必ず入力する」「空調設備には点検周期と担当業者連絡先を紐づける」といったルールを、プロジェクト初期に合意しておくことが成功の鍵です。
- 既存システム(FMシステム等)との連携と運用ルールの構築
BIMモデルは、既存の施設管理システム(CAFM・CMMS・EMS)と連携することで真価を発揮します。単独で運用するよりも、点検スケジュール管理・修繕費用管理・エネルギーデータとの統合により、包括的なファシリティマネジメントが実現します。
また、どんなに優れたシステムを導入しても、現場スタッフが使わなければ意味がありません。スマートフォン・タブレットから直感的に操作できるUIの採用と、段階的なオンボーディング研修・マニュアル整備により、現場への定着を図ることが重要です。
5. まとめ
建物のライフサイクルの7〜8割を占める維持管理フェーズにこそ、BIM活用の最大の価値があります。設計・施工BIMを竣工で終わらせるのではなく、維持管理・施設管理へとシームレスに引き継ぐことの実現が、これからの建物オーナー・施設管理会社にとって最重要の戦略課題となっています。
まずは自社施設の維持管理課題を棚卸しし、BIMモデルの活用によって解決できる領域を特定するところから始めてみましょう。
維持管理BIM/CIMの導入や活用について、以下のような課題をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
- 点群データから維持管理用BIM/CIMを作成したい
- 既存のBIM/CIMデータを維持管理に活用できるか知りたい
- 点検記録や補修履歴をBIM/CIMモデル上で管理したい
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