2026/10/26
- 対談
「メンテナンスに困っている」オーナーの声から考える、BIMの価値

建物は、完成して終わりではありません。
設備の点検や修繕、更新など、建物のオーナーにとっては、引き渡し後も長く続く維持管理こそが重要です。しかし実際には、必要な情報が十分に引き継がれず、メンテナンスに困るケースも少なくありません。
こうした課題に対して、BIMはどのように役立つのでしょうか。
BIMモデリングや施工図作成を手がける株式会社Joh Abroadと、BIMの維持管理・運用のフェーズでの活用を支援する「BIMSTOK」を提供する株式会社アーリーリフレクション。2社の特別対談を、全3回にわたってお届けします。
第1回は、両社が建物の維持管理に着目した背景と、オーナーによるBIM活用についてお話しました。
対談参加者

1. 施工時の納まりだけでなく、将来のメンテナンスまで考えるBIM
アーリーリフレクション 三井 瑞紀 (以下、三井):まず、Joh Abroadについてご紹介いただけますか。
Joh Abroad 福澤 譲 様(以下、福澤様): 当社は大阪に日本の拠点を置き、ベトナムとネパールでCADセンターを運営しています。
事業は大きく3つあります。
ひとつは、ゼネコンやサブコン向けのBIM関連の支援です。施工BIMや施工図作成を中心に、基本設計からお手伝いすることもあります。現在もマンション、商業施設、倉庫などのプロジェクトを支援しています。
2つ目は、住宅業界向けの構造計算や省エネ計算、申請関連のサポートです。主にベトナム中部のダナンで行っています。
また、3つ目の事業として、製造業向けにはCADを用いた金型設計などの支援もしています。
BIM関連では、意匠・構造・設備のモデリングだけでなく、施工図の出力まで対応できることが当社の一番の特徴です。現在は、大型の施設跡地や、浄水場のプロジェクトなどをお手伝いしています。
なかでも今、特に力を入れているのが、設備BIMです。空調や配管などの設備モデルの検討から、施工図の作成までを支援しています。
三井:意匠・構造・設備のモデリングから施工図の作成まで幅広く対応されているなかで、特に設備BIMに力を入れていらっしゃるのですね。そこには、どのような背景があるのでしょうか。
福澤様: BIMのことは、会社を設立した2020年頃に知りました。
その後、今から4年ほど前に現在ネパールの責任者をしているAmanと出会い、それをきっかけに「BIMが進むべきなのは意匠より設備ではないか」と思い始めました。
確認申請が終わって着工すると、意匠には手を入れられないため、設備側で無理に納めることがあります。
このとき、設備を納めること自体はできても、その納まり方によっては、完成後のメンテナンスに支障が出ることがあるんです。例えば、後から設備機器を交換しようとした際に、周囲の設備が干渉して取り出せないといったケースはよくあります。
施工する側にとっては「納まった」で終わる話でも、その後何十年と建物を維持管理するオーナーにとっては、大きな問題になります。
だからこそ、施工時に納まるかどうかだけではなく、その後の維持管理までを見据えて設備を考えることが重要だと思い、3D施工図としてのBIMに価値を見出したのが、力を入れ始めたきっかけですね。
そうして、設備分野を強化するようになり、依頼も増えていきました。本格的にAmanと一緒に取り組むようになってからは、設備のBIMモデルをさらに強化していくことに。そのなかで「意匠も一緒にお願いできませんか」という依頼も増えてきましたね。
私たちは、BIMモデルを作ること自体を目的とするのではなく、そのモデルが施工時にも、完成後の維持管理にも役立つことを大切にしています。
2. 「メンテナンスに困っている」建物オーナーの声に応えたい
アーリーリフレクション 田中 喜之 (以下、田中): お話を伺って、BIMを手がける御社が、BIMSTOKにどのような可能性を感じてくださっているのか、改めてお聞きしたいと思いました。
福澤様: 私はもともと、建築・不動産業界やゼネコン向けの経営コンサルティング会社にいました。建築物の資産価値に向き合うようなコンサルティングをしていたんです。
BIMSTOKに興味を持った背景には、以前から抱いていた「建物は誰のためにあるのか」という問題意識があります。
建物を作る側は、作るときのことしか考えていない場合があると思うんです。しかし、建物は建てたときより、建て終わった後のほうが大変です。
「作っておしまい」ではよくない。建てているときからその後のメンテナンスまで考えるべきなのに、という思いがずっとありました。
当社の経営理念にも、「不動産が真の資産価値となるサポートを行い、適切な不動産流通を支援する」という考えを入れています。BIMは、そのための手段の一つです。
不動産の状態や価値を調べるデューデリジェンスにも、BIMが使えるのではないかと考えています。
欧米では、ホテルや工場など建築物の調査にBIMを使うことがあります。外側はきれいでも内部を見ると傷んでいる建物もあるわけで、建物の内部の状態が詳細に分かれば、評価も変わってきますよね。
田中: 私たちがBIMSTOKの着想を得たのも、「BIMは本来、維持管理でもっと使えるはずなのにあまり使われていない」と感じたことがきっかけでした。
以前、私は地図ソフトを手がける上場会社の経営に関わっていました。そのグループに、河川やダムなどを得意とする建設コンサルタント会社が入り、そちらの経営にも携わることになったんです。
そこで業界について知り、技術士の方々と議論を重ねました。私自身はIT企業にいたので、「ソフトウェアでもっといろいろなことができるのではないか」と考えていました。
その議論のなかから「BIMを維持管理に活用する」という発想が生まれたんです。
福澤様: 設計や施工では、確認申請や引き渡しまでがゴールになっていることがあります。一方で、オーナーから一番多く寄せられるのは、実は「メンテナンスに困っている」という声なんです。
そもそも、建物は誰のためにあるのか。誰のために作るのか。これはオーナーのためですよね。引き渡した後のファシリティマネジメントまで考えることが、本当の意味でオーナーのためになるはずです。
今後の日本では、新しく作ることだけでなく、メンテナンスがますます重要になると思っています。
そうしたなかでBIMSTOKの考え方に触れ、魅力を感じましたね。
三井:建物を作る側と、完成後に維持管理するオーナー側では、BIMに求めるものも違ってくるということですね。
施工から維持管理へと引き継ぐなかでの課題については、AmanさんやBuiさんも同じような問題意識をお持ちでしょうか。
Joh Abroad Aman 様:ファシリティマネジメントやメンテナンス計画などに携わるなかで、建物の引き渡し後にメンテナンスを進めようとしても、施工に携わった人たちを呼ばないと計画すらできない、という問題に直面していました。
運用自体は続けられていても、問題が発生したり、設備を更新したくなったりしたときに、非常に困るわけです。そうしたときに、BIMがオーナーさんにとってありがたいものになると考えています。
Joh Abroad Bui 様:BIMがあれば、更新の計画やコストについてオーナーさんが自分で判断できるようになるんです。一方で、多くのオーナーさんは、RevitやRebroのようなBIMの専門ソフトを使えるわけではありません。だからこそ、BIMSTOKのようなシステムがあれば、BIMを活用しやすくなります。
田中: BIMSTOKを作った当時も、ビジネスの中心は施工側でした。運用のための製品を出しても、活用が広がるのはまだ先だろうと思いながら取り組んでいた部分があります。だからこそ、メンテナンスの重要性について、こうして共感いただけるのは嬉しいですね。
3. BIMを知らなくても、オーナーが「欲しい」と感じる理由
三井:福澤さんとのお話で特に印象に残っているのが、展示会でのエピソードです。BIMを知らない方に「BIM」という言葉を使わず説明しても、興味を持ち、メリットを感じてもらえると伺いました。
福澤様:そうなんです。そもそも私自身が、エンジニアではありません。ですので、AmanやBuiからBIMというものを教わって、衝撃を受けた過去があります。
先日も、知人である工場オーナーに、当社のモデルを紹介しました。その方もBIMをまったくご存じなかったのですが、画面を見せて簡単に説明するだけで「欲しい」と言ってくださったんです。
BIMという言葉や細かな技術を説明しなくても、一目見ただけでオーナーさんが使い方をイメージできる。その反応は、私にとっても自信になりましたね。
田中: BIMSTOKでは、建物の形や構造に維持管理の情報を結びつけています。専門用語を知らなくてもその画面を見れば、使い方やその先の運用をイメージしてもらえるということですね。まさに私たちが目指していることです。
4. 専門知識がなくても、オーナー自身がBIMを活用できるように
福澤様: BIMモデルを見せて、設備の品番や耐用年数などの情報も入れられるのだと説明すると、オーナーさんからは「自分たちでも操作できますか」と必ず聞かれます。
ただ、BIMをいいと思っても、実際に使うには、BIMを扱える人材や高性能なパソコンが必要になるという問題があります。
当社でも、社員が増えるたびにもちろん新しいパソコンを用意しています。高性能なパソコンに加え、ソフトウェアも揃えるとなると、それなりの費用がかかります。これがオーナーさんの場合は、さらにBIMを使える人材を雇う、もしくは育てることまで考えなければなりません。
ですが、BIMSTOKがあれば、そうした準備をせずに誰でもBIMモデルを使える。そこがいいと感じました。
細かなBIMの技術や専門のエンジニアがいなくても使えるのであれば、それはまさにオーナーさんのためになります。
私が作った製品ではありませんが、オーナーさんに「これを使ったほうがいいですよ」と、自信をもって紹介できるプロダクトだと感じています。
田中:ありがとうございます。私たちも、BIMを使うこと自体が目的ではなく、建物を維持管理する方々が、必要な情報を把握し、日々の業務に活かせることが重要だと考えています。
設計・施工の段階から維持管理までを見据えてBIMを整備し、それをオーナー自身が活用できるようにする。そうした環境を、両社で広げていければと思います。
次回の対談では、BIMの利用目的に合わせて、モデルに入れる情報をどのように決めるべきか、両社の視点で解説します。

対談後、Joh Abroad様のベトナムオフィスを訪問させていただきました!

Webサイト:https://joh-abroad.jp/
お問い合わせフォーム:https://joh-abroad.jp/contact/