2026/10/28
- 対談
工場の維持管理費15%削減の可能性。BIM活用で何が変わるのか

建物のライフサイクル全体でかかる費用のうち、維持管理費用が約70%を占めるとも言われています。つまり、建物にかかる費用の多くは、完成後の長い維持管理のなかで発生するのです。
設備の故障による急な修繕、図面と現況の違いによる追加工事、増え続けるエネルギーコスト。特に工場では、こうした維持管理コストをいかに抑えるかが、建物オーナーにとって重要な課題となります。
建物を作るときの費用だけでなく、その後の長い維持管理に目を向けると、BIMの価値はどのように見えてくるのでしょうか。
株式会社Joh Abroad(ジョーアブロード)と株式会社アーリーリフレクションによる特別対談の最終回は、工場の維持管理費に着目。
エネルギー管理、設備交換、故障前の点検という3つの観点から、BIMによるコスト削減の可能性と長期的な視点でBIMの導入を考えることの重要性についてお話ししました。
対談参加者

1. 建設費だけでなく、30年間の維持管理費に目を向ける
アーリーリフレクション 三井 瑞紀 氏(以下、三井): これまで対応されたプロジェクトのなかで、もともとはBIMを使う予定ではなかったものの、将来の維持管理を見据えて導入を決めたケースもあるのでしょうか。
Joh Abroad 福澤 譲 氏(以下、福澤様): あります。現在ご支援している東北の工場が、まさにそうですね。オーナーさんにBIMの活用を提案したことで、そのために必要な費用を確保していただいた案件です。
例えば工場の場合、建設時の費用だけでなく、今後30年間のメンテナンスにいくらかかるかを考える必要があります。
BIMモデルを作るための費用がかかりますが、その後の長い維持管理のなかでコストを抑えられるのであれば、オーナーさんにとって十分に検討する価値があります。
実は、BIMモデルを整え、維持管理に活用することで、そのメンテナンス費用を15%程度削減できるのではないかという仮説があるんです。
その内訳として大きく分けると、
- エネルギー管理
- 設備交換に伴う余計な工事の削減
- そして故障前の点検
の3つです。それぞれで5%程度の削減を見込めるのではないか、と言われています。
2. エネルギー使用量を見える化し、工場の運用コストを抑える
福澤様:まずは、エネルギー管理について。工場は住宅と違って、日中ずっとエネルギーを使っています。中には、24時間止められない工場もありますよね。オーナーさんにとって、電気代をどう削減するかは大きな課題です。
例えば、BIMとエネルギー解析を組み合わせれば、ルーバー(光や風の入り方を調整する羽板)の角度や設備の運転条件によって、エネルギー効率がどう変わるのかを検討できます。
そうした見える化を通じて、適切なエネルギー管理ができれば、5%程度のコスト削減につながるのではないかと考えられています。
例えば、欧州には「エネルギーパス」という、建物のエネルギー性能を表示する仕組みもあります。建物を買ったり借りたりするときに、価格や家賃だけでなく、どのくらいエネルギーを使うのかも見るわけです。「購入価格は安くてもエネルギーコストがかかる建物」と、「購入価格は高くてもエネルギーコストを抑えられる建物」というように比較できるようになっています。
将来的に、BIMSTOKのようなツールでエネルギー性能を見える化できれば、オーナーさんにもさらに喜んでいただけるはずです。
アーリーリフレクション 田中 喜之 氏(以下、田中): 実際に、BIMSTOKに関心を持っていただいた方からも、エネルギーの話はよく出ます。維持管理を効率的に行えるようにすることを目指している私たちとしても、今後BIMSTOKに取り込んでいきたいと考えています。
3. 「図面どおりに交換できない」余計な工事を減らすために
三井: 2つ目の、設備交換に伴う余計な工事とは、どのようなものでしょうか。
福澤様: 実際にできた建物と、引き渡された図面が違っているために、設備交換の際に必要になる追加工事です。
設備機器を交換しようとしたら、干渉して交換できない。図面の上では交換できるはずなのに、現場へ行くとなぜかできない。これはオーナーさんにとって、よくある問題なんです。
意匠を変えられないために、建設時には設備を無理に納めることになる。ところが、納品される図面はそれに合わせて更新されないので、実際にできたものと違っている。そうすると、余計な工事が必要になり費用がかかってしまうことが多々あります。
オーナーさんからすれば、依頼したものと違うものができているわけですから、本来はもっと問題にしてよいはずです。それでも、交換するために追加の工事をせざるを得ない。
建設時には問題にならなかったことが、引き渡し後にオーナーさんの負担になってしまうわけです。
こうした図面と現況の食い違いによる問題を解消するだけでも、5%程度はコストが変わるのではないかと考えられています。
4. 壊れてから急いで直す。その費用を減らすには
三井: 3つ目の「故障前の点検」については、どのようなコスト削減が期待できるのでしょうか。
福澤様: 例えば、設備が壊れてから初めて施工会社を呼び、急いで工事をしてもらう。そうすると、特急料金などが発生し、コストが高くなってしまいます。
人間の体も、健康診断で「ここがあまりよくないですね」と分かった段階で対応すれば、大きな問題になってから治療するよりも、負担を抑えられますよね。設備もそれと同じだと考えてください。
例えば、耐用年数が10年の設備でも、定期的な点検や適切なメンテナンスによって、より長く使える可能性があります。
ところが、そのための情報が揃っていなかったり、すぐに取り出せる状況になかったりして、定期的な点検ができないことが多いのです。
そのためには、設備の仕様や耐用年数、過去の点検・修繕履歴などの情報を把握しておくことが重要です。
BIMモデルとこうした情報を紐づけて管理できれば、設備の状態を確認しながら、計画的に点検や更新を進めやすくなります。
結果として、突然の故障による緊急工事や、不要な設備交換を減らし、維持管理費の削減につなげられると考えています。
5. BIM導入費用を、長期的な維持管理コストから考える
福澤様: この3つを適切に管理すれば、メンテナンスコストを15%、あるいはそれ以上削減できるのではないか、と考えられています。
この3つは、どれもオーナーさんにとってはよくある困りごとなんです。
田中: オーナーさんも困りごととして認識されているのに、対処が難しくなっているということですね。
福澤様: そうですね。そこでBIMモデルを見せて、設備の情報も併せて入れられると説明すると「そんなことができるんですか」となるわけです。
オーナーさんには、BIMに紐づけて情報を整理し、維持管理に活用することで、メンテナンス費用を下げられる可能性があることをお伝えしたいですね。
BIMモデルを作るのは、何億円もかかるという話ではありません。先ほどの工場の例であれば、規模にもよりますが1,000万円ほどで作れるのではないかと考えています。
建設時にBIMモデルを作るための費用だけを見るのではなく、その後30年間にかかる維持管理費と、そこから削減できる可能性のあるコストを合わせて考えていただきたいです。
田中: 私たちも、BIMを作ること自体が目的ではなく、その情報を建物の維持管理に活かし続けることが大切だと考えています。オーナーさんにとって、BIMが長期的な建物の価値を支えるものになっていくとよいですね。
全3回を通じて両社が語ったのは、建物を管理するオーナーさんの立場からBIM活用を考えること。
建物オーナーが抱える課題を起点に、必要なモデルや情報を整え、建設から維持管理へとつなげていく。そして、その情報を活かし続けることが、維持管理の効率化やコスト削減、ひいては建物の長期的な価値向上につながります。
建物を「作っておしまい」にしない。
Joh Abroadとアーリーリフレクションは、それぞれの立場から、維持管理を見据えたBIM活用の可能性を追求していきます。

対談後、Joh Abroad様のベトナムオフィスを訪問させていただきました!

Webサイト:https://joh-abroad.jp/
お問い合わせフォーム:https://joh-abroad.jp/contact/